いつしか愛は毒になる
「社長、おはようございます」

「おはよう、気が利くね」

杏子は俺のデスクに、入れたてのコーヒーとサンドイッチをことりと置く。

「あら? 朝からメールしてきたくせに。今日はどうしてもサンドイッチが食べたいなんて子供みたい」

「悪いな、ここのサンドイッチ好きなんだ」

「駅前のサンドイッチなら、奥さんに並んで買ってきてもらえばいいのに」

「杏子が買ってきてくれるのが食べたいんだよ」

杏子がふわりと微笑むと、俺の背中から両手を首に回す。

「雅也、その名刺どうしたの?」

「ちょうど今日隣に越してきた女が、高坂社長の新しい秘書らしくてね。これは使えそうだなって」

「あ、また雅也なんか悪い事かんがえてるでしょ?」

杏子が頬を膨らませたのを見ながら俺は、ふっと笑う。

杏子は今年入社三年目の二十六歳で、誰にもいえないこの関係も三年になる。俺と同じ野心家の杏子とはすぐに意気投合し、早苗との結婚とほぼ同時に深い関係になった。

「どうだろうね、俺はこの会社をもっと大きくして、もっと稼いで……はやくあの陰気な女と離婚したいんだ」

「奥さんかわいそう……せっかく雅也みたいな顔もよくて仕事もできる人と結婚してもらったのに」

「何度もいってるだろ、俺はこの会社が欲しかったんだ。早苗の父が死んでくれたおかげで経営権もろもろ俺の名義に変更したし、あとは子どもができないことを理由に来年あたり離婚してやるさ……あの女名義の株だけが厄介だがな」
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