冷酷御曹司の〈運命の番〉はお断りです
「そうだ。月読家の支配下にいるのが気に食わなかったからだ。仕事面では成功したが、結局、婚約はどうにもならなかったな。『運命の番を見つけたら婚約破棄できる』と条件を付けられただけマシだろう。誰も、本当に運命の番を見つけられるなんて考えていなかった。そういう夢物語しかオメガには許されない」

「なるほど……?」

 庶民の私には到底縁のない話に、頭が痛くなってきた。
 ズキズキ痛む眉間を揉みほぐし、フーッと長く息を吐く。

 この人にも苦労があるんだな、と同情心は湧いてくるものの。

「だとしても、私には略奪とか、本当にできませんよ。したくない」

 投げやりな返事に、隣から吐息だけで笑う気配が伝わってきた。

「雨宮はアルファらしくないな」

「あの鏑木とかいう人と比べられているなら、心外です。私はアルファですよ。だからこそ、平気な顔して他者を踏みつけにするような真似はしたくないと思っています」

「……そうか。だから自傷してでも、俺の頸を噛まなかったのか?」

「はい?」

 ちょうど信号が赤になって、車が止まる。

 社長がこっちを向いた。息を呑むほど真剣な面差しで、双眸には逃がすまいとする強い光が宿っていた。

「雨宮は、俺のことが気に入らないから運命の番にはならないと言ったな。だが本当は、他にもっと根深い理由があるんじゃないのか」
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