愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 なんだか彼が知らないうちに、別人になってしまったような……そんな違和感。

 けれど彼は、わたしの問いを笑い飛ばす。

「ははははっ! 何言ってるの、ユリア! もうずっと前から僕の方が大きかったでしょ?」
「……え?」

 あれ? そうだったかしら?

「僕たちもうすぐ十四歳になるんだよ? 忘れちゃった?」

 彼はひとしきり笑ってから、自分の腕をわたしの目の前にぐいっと突き出す。

「ほら見てよ! 最近筋肉もついてきたんだよ!」

 自慢げに鼻を鳴らし、二の腕に力を込めてみせる彼。
 そこには確かに、わたしとは比べものにならない、ぽっこりとした力こぶがあって……。

「……本当、ね」
「でしょ? それに……君だって……その」

 言いかけて、彼は再び顔を赤くする。

「……?」
「君だって……とても綺麗になったよ。昔からずっと可愛かったけど……最近は、もっとずっと、綺麗になった」
「――っ」

 熱を帯びた彼の瞳。その瞳に見つめられると――たまらなく、恥ずかしい。

「あぁーもう、ユリア、君本当に可愛いすぎるよ! 僕、今、夢を見てる気分だよ」

 言葉と同時に、手をぎゅっと握られる。わたしより大きな、力強い手のひらで。

 わたしはそれがやっぱり恥ずかしくて、彼の顔を見れなくて。
 だからその代わりに、必死の思いで彼の手を握り返す。

「ゆ……夢じゃ、困る……わ」
「うん、そうだよね! 僕も困る!」

 そう言って、彼は笑う。

「ふふっ、なに、それ」

 わたしも――笑う。

 そうやってわたしたちは、日の暮れるギリギリまで、二人きりで過ごした。
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