愛しのあの方と死に別れて千年<1>

2.思い出――聖なる夜


 雪がしんしんと降り積もっている。

 窓の外に広がる森の景色はいつもと違い、あたり一面白銀の世界だった。
 木々の梢に雪が咲き、地面に厚く積もる雪には動物たちの可愛らしい足跡が点々として、それはまるで真っ白なキャンパスに絵を描いたよう。

 わたしは景色を直接見ようと窓を開け、そこから顔を覗かせる。

「……きれい」

 ――ああ、なんて幻想的なのかしら。

 はぁ――と息を吐けば、それは薄い雲になって森の景色に溶けていく。

 わたしは寒さも忘れ、雪景色を眺める。もうすぐ来るはずのあの人に、思いを馳せながら。

「あぁ、早く来ないかしら」

 わたしは浮かれていた。
 なぜって今日はクリスマス。これから彼とささやかなお祝いをすることになっている。

 昨日のうちから部屋を飾り付け、今朝はいつもより二時間早く起きて料理をした。

 いつもは暖炉とテーブル、そして小さなソファーが二つあるだけの、お世辞にも素敵とは言えない部屋。

 けれど今日だけは違う。森で()ってきたモミの木と、木の枝で作ったクリスマスリース。そこにわたしが毛糸で編んだ、色とりどりのオーナメントを飾り付けた。サンタやトナカイや天使、キャンディケインと黄色いベル、それから赤い実のたくさん付いたヒイラギも。

 テーブルの上には焼きたてのバゲットと、彼が前に美味しいと言ってくれたナッツと干しぶどうのカンパーニュ、もちろん七面鳥も外せない。デザートにはりんごとはちみつをたっぷり使ったタルトタタンを焼いた。あとはじゃがいものスープを温めなおすだけ。

 そして、クリスマスプレゼントには――。

「……喜んでくれるかしら」

 この日のためにコツコツ編んだ赤いマフラー。彼の栗色の髪によく()えるだろうと思って選んだ色。

 わたしは彼がこのマフラーを巻いているところを想像し、ひとり口元を緩ませる。

 すると、ちょうどそのとき――。

「ユリア、僕だよ」

 扉を叩く音と同時に聞こえる、優しい彼の声。

 わたしはマフラーをソファーのクッションの下に隠して、玄関へと走った。
 ドアを開け放ち、彼の胸の中へと飛び込む。

「――待ってたわ!」
「ははっ、ユリアは相変わらずだね、僕も早く君に会いたかったよ」

 彼はわたしを抱きしめて、柔らかに微笑んだ。
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