愛しのあの方と死に別れて千年<1>

「――!」

 けれど、それは叶わなかった。ないのだ、どこにも。あるはずの短刀が。

 結局私はそれ以上どうすることもできず、やり場のない怒りを瞳に込める。
 そんな私に、ルイスは――。

「……僕が憎いですか?」

 ただ寂しそうに、微笑むだけ……。

「僕を殺したいですか?」

 ――殺したいわ。でもそんなことをしたら、ウィリアムが死んでしまう。

 私はただルイスを睨みつける。

「……そうですか。ではこうしましょう。先ほどの条件、変えて差し上げます」
「――――」
「ウィリアム様のお命をお救いした暁には、あなたが僕を殺してください。そうしたら、僕は綺麗さっぱりあなたを諦めます。――ね? これならいいでしょう?」
「――ッ」

 そう言った彼の瞳は、真っ暗な闇に囚われたように深い狂気に揺れていた。

 私は思わず後ずさる。全身から汗が噴き出して……身体が震えて、足がすくむ。

「いいですか、アメリア様。これは命令です。あなたはこれからウィリアム様を愛し、愛されるのです。その間に僕はアーサー様の目を手に入れる。あなたとウィリアム様の繋がりを断つためには、どうしてもそれが必要ですから」

 ルイスの表情は、ただ狂気に満ちている。

 彼から立ち上る黒いオーラは、すべての生気を吸い取ってしまいそうなほどに禍々しい。

 ああ――本当にこれが人間の持つオーラなのか。何がルイスをここまで狂わせたのか。

「あなたはもう逃げられない。これが僕らの運命だ。――いいですね、あなたはただウィリアム様を心から愛するだけでいい。後は僕が全て、滞りなく処理しますよ」

 そう言って微笑むルイスの唇は、漆黒の闇に浮かぶ三日月のように酷く歪んでいた。
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