【コミカライズ】愛しのあの方と死に別れて千年 ~今日も私は悪役令嬢を演じます~〈1〉

「本当に美しいお身体ですわ、アーサー様」

 その唇が、アーサーの身体に赤い印を付けていく。ゆっくりと、赤い(はな)を咲かせるように。

「……っ。おい、ヴァイオレット……目に付くところには……付けるなよ」

 はぁっ――と吐息まじりに呟いて、アーサーはヴァイオレットの背中に手を伸ばした。

 つるりとした陶器のようなキメの細かい白い肌。女の魅力を(あま)すことなく兼ね備えた神秘的ともいえる肉体。――彼女のような女に奉仕され、悦びを感じない男がいるだろうか。

「――く、……ぅ」

 アーサーは熱を帯びていく自分自身に、唇を歪ませた。ヴァイオレットの体熱に侵され、その快楽にただ身をゆだねる。

 けれど決して瞼を閉じることはなかった。目の前の美しい光景を一瞬でも見逃しては、損というものだ。

「……ああ、ヴァイオレット……お前は……本当に美しい」
「ふふ――光栄ですわ」
「……お前だけだ……この俺を、特別扱い……しないのは」

 アーサーは甘い吐息を漏らしつつ、ヴァイオレットの髪を指先に絡めとる。――が、そのときだった。
 どういうわけか、ヴァイオレットの動きがピタリと止まったのだ。

 彼女の身体がゆっくりとアーサーから離れ――急にどうしたのかとアーサーが顔を覗き込めば、ヴァイオレットの長い前髪の奥の瞳がどこか不愉快そうに笑っていた。

「どうした、何がおかしい」

 アーサーが尋ねると、ヴァイオレットは冷めた様子で前髪をそっと耳にかける。

「らしくないことをおっしゃるものだから。わたくし、あなたが王子でなかったらこのようなこと致しませんわ」
「…………」

 自分たちの関係が不健全極まりないことは、アーサー自身が一番よく理解していた。

 常識的に考えて、一国の王太子が娼婦に現を抜かすなどあってはならないことである。当然、素直な気持ちを伝えることなどできるはずもない。その気持ちを誤魔化すために彼女以外の複数の女と繋がりを持っているのだから、なおさらだ。
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