愛しのあの方と死に別れて千年<1>

「――ほら」

 彼は返事も待たず、私を抱きかかえてベッドまで移動する。そして私をそっと降ろすと、部屋の外へ向かって声を張り上げた。

「誰かいるか! すぐに医者を呼べ! 薬箱を持ってこい!」

 その真剣な横顔と強い口調は、確かに彼が騎士であることを表わしているように見える。
 それでもやっぱり、彼の私を見る目は優しくて……。

「大丈夫だよ。こうしてれば血はすぐに止まるから。傷は……残っちゃうかもしれないけど」

 彼の悲しげな表情に、私は静かに首を振る。傷なんて気にしない、と。
 すると彼は私が強がっていると思ったのか、困ったように微笑んだ。

 少しして、部屋のノック音と同時に執事の声が聞こえてくる。

「薬箱をお持ちしました。が……その、お客様がお見えになっております」
「客……? あぁ、そうか。君の迎えだね」

 ライオネルはすっかり忘れていたと言わんばかりに眉を寄せる。

「少し待ってもらうように伝えてくれ。それより早く薬箱を」
「いえ、それがその……」

 執事が口ごもる――それも束の間。

 勢いよく扉が開け放たれたかと思うと、なだれ込むように誰かが部屋に入ってきた。
それはまさかのウィリアムだった。

 彼の顔色は、体調でも悪いのかというほどに蒼白だった。その後ろにたたずむ、どこか上機嫌なルイスとは対照的に。

 ――ウィリアムの視線が、ベッドの上の私とライオネルに釘付けになる。

 泣き腫らした顔の私と、それに寄り添うようにベッドに片膝を乗せたライオネルに――。
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