愛しのあの方と死に別れて千年<1>

2.新たな誓い


「何を、している……?」

 それは私の知るウィリアムの声ではなかった。
 何か重大な勘違いをしたであろう彼は、いつもより数段低い声で唸る。

「彼女に――何をした」

 その顔に言いようのない怒りをたたえ、ライオネルの襟元に掴みかかった。
 それはまさしく恋人に手を出された男のように――ウィリアムは、ライオネルを怒りの形相で睨みつける。

 そしてそんな彼の姿に、私は驚かずにはいられなかった。

 だって、ウィリアムがこんな顔をする理由がないのだから。あくまで形式上の婚約者である私のために、こんな風に怒る必要はないのだから――。

 けれどそんな事情を知る由もないライオネルは、あらぬ誤解を受けたことに気分を害したようだった。

「ファルマス伯爵、でしたよね。何か誤解があるようですが、僕は怪我をした彼女の手当てをしていただけ……。ですからどうかお気を鎮めてくださいますよう。彼女が驚きます」
「なん、……だと」
「誤解だと言っているんです。あなたには、彼女のこの怪我が見えないんですか?」
「――っ」

 冷静な言葉とは裏腹に、ライオネルから放たれるウィリアムへの敵意と殺気。
 その殺気に当てられて、ウィリアムはゆらりと一歩あとずさる。自分を憐れむような目で見据えるライオネルに、何も言葉を返せずに――。

 結局二人はそれ以上言葉を交わすことなく、ただ睨み合うばかりだった。
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