愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 瞬間、ウィリアムは動揺する。

「ル……ルイス! こ、これは……」

 ああ、ウィリアムが驚くのも無理はない。だってこれは……。

「ひ、膝枕じゃないか!」

 ――そう。それはまごうことなき膝枕だった。ウィリアムの両膝にのる、私の頭……。

 それにしても、他人に膝枕をしてやるなんてウィリアムには初めての経験なのだろう。
 彼は自分たちの体勢に、口をパクパクさせている。

「ル……ルイス! いくらなんでもこれは……!」
「お嫌ですか? このスペースでアメリア様に横になっていただくにはこれしかないでしょう。なんなら私が代わって差し上げてもよろしいですが」
「――な。……お前が……代わりだと?」

 ルイスの申し出に、ウィリアムの眉がピクリと震える。ルイスに膝枕される私の姿でも想像したのだろうか。――私はまっぴらごめんなのだけれど。

 一方ルイスも、私とウィリアムの感情を読んだのか、次の瞬間には表情を消し、「冗談ですよ」と言い捨てる。そして何事もなかったかのように、外の景色に目を移した。

 こうして、私の膝枕役は無事ウィリアムに決定したのだった。

 ウィリアムは諦めたようにため息をつき、困ったように私を見下ろす。

「少し眠るといい。王都まではまだ時間がある」

 その表情は未だどことなく不服そうではあったけれど、微かに赤く染まった耳が彼の心情を物語っている。

 私はそんなウィリアムの姿をいつまでも見ていたくて、じっとウィリアムを見上げる。
 するとわずかに頬を染め、私から視線を逸らすウィリアム。

「あまり見るな。寝ていろ」

 そのぶっきらぼうな物言いも新鮮で。

 ああ、なんて幸せな時間だろう。熱のせいだろうか――思考が浮ついて、自分の欲望のままにウィリアムを求めてしまう。

 ウィリアムに膝枕してもらえるだなんて、なんて素敵な夢なのかしら……。
 私は熱に侵された頭でそんなことを考えながら、ゆっくりと目を閉じた。

 傷の痛みはもう感じない。身体は熱いが……それはきっと、ウィリアムの膝の温かさのせい。彼の、頬に差した(あか)のせい。

 ――愛しているわ、ウィリアム。

 ウィリアムの体温を感じながら、私は眠りへと落ちていった。
 千年ぶりの、幸せな夢を見るために――。
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