愛しのあの方と死に別れて千年<1>

「僕がここにいられる時間はあとわずかでございます。ウィリアム様、お願いです。どうかアメリア様を、あの方を幸せにして差し上げてくれませんか。僕のお願いを、たった一つの願いを、どうか叶えてはくださいませんか」
「ルイス……お前……」

 ウィリアムはルイスの震える声に、言葉に――大きく目を見開いた。
 それはあの日交わした約束。いつかルイスの願いを一つだけ叶えてやると、固く誓ったその約束。

 瞬間、ウィリアムは何かを悟ったように俯いた。大切なことを思い出したように、忘れていた記憶を必死に手繰り寄せるように……。

 ウィリアムは、苦々しげに呟く。

「それが……お前の願いなんだな」

 まるで独り言のように――必死に自身に言い聞かせるように。

「……それが……お前の答えなのだな」

 ウィリアムの瞳に揺れる葛藤。それは重く、深く――心が(えぐ)り取られているような――。

 ウィリアムはゆっくりと目を閉じた。彼は、深く決意する。

 再び見開かれたウィリアムの瞳、そこにはもう迷いは見られなかった。
 アメリアを幸せにする自信など彼にはない。けれどルイスの願いを叶えてやりたいという、その気持ちだけは彼の瞳に確かに強く宿っていた。
 だからもうウィリアムは、それ以上ルイスに何かを言うことはなかった。

 ウィリアムはただ黙って白い月を見上げる。

 ルイスはそんな主人の背中を――深い憐れみを込めた眼差しで――静かに見つめていた。
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