愛しのあの方と死に別れて千年<1>

7.青い月の夜に


 そしてまた同じ時刻に、同じように月を見上げる者たちがいた。

 王宮の一室の開け放たれた窓から覗く青白い月を、アーサーは茫然と眺めていた。
 部屋はやはり薄暗く、ベッドの脇の小さなランプの赤い炎がちらちらと揺れるのみである。

 アーサーの頭はヴァイオレットの丸みを帯びた薔薇色の太ももに乗せられていた。
 そんな彼の銀色に輝く細い髪を、ヴァイオレットは白く美しい掌で優しく撫でている。

「アーサー様、本日は一段とお元気がありませんのね。みんな心配しておりましたよ」

 ヴァイオレットは囁く。けれどアーサーは答えない。
 その代わり、彼は寝返りを打ちヴァイオレットの下腹部に顔をうずめた。

「俺は……どうしたらいい。――なぜ、こんなことになった」

 アーサーの声は苦悶(くもん)に満ちている。
 そこにはいつもの飄々とした彼の面影は欠片もない。

 ヴァイオレットはそんなアーサーの頭をしばらく撫でてから、柔らかく微笑む。

「わたくし、当てて差し上げましょうか。ウィリアム様と喧嘩なさったのでしょう?」

 するとその言葉に反応したのか――ヴァイオレットの腰を抱くように回されている――アーサーの腕がピクリと震えた。
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