愛しのあの方と死に別れて千年<1>

3. 予期せぬ求婚

 王都でも有名な荘厳(そうごん)な建物に足を一歩踏み入れると、煌びやかに輝くシャンデリアが客人を出迎える。
 ゆうに五百人は収めるであろうその大広間。大理石の床は鏡のごとく磨き上げられ、壁や天井には美しい彫刻が施されている。

 今夜サウスウェル伯爵家が招かれたのは、スペンサー侯爵家の主催する夜会であった。

 スペンサー侯爵は上級貴族でありながら宝石商としても名の知れた人物だ。最近は領地の管理を三人の息子達に任せ、侯爵自身は商売にのみ精を出していると聞く。
 彼は商売で成した財で頻繁に夜会を開き、そこで更なる商売を行うのだ。今夜の夜会も例外ではない。

 アメリアは両親の後について大広間に入る。
 するとさっそくアメリアに向けて、ヒソヒソと悪意ある言葉が(ささや)かれた。

「あら、珍しい方がいらっしゃったわ」
「今日はどんな騒ぎを起こしていかれるのかしら」
「しっ。黙ってらした方がいいわよ。ワインをかけられでもしたらたまらないわ」
「でも今夜はなんだか雰囲気が違ってらしてよ。そうは思いませんこと?」

 それは文字どおりほんの囁き声であり、アメリア以外の者には届かないほどの声量だった。
 けれど、アメリアにはそれがはっきりと聞き取れる。

 アメリアが声のした方に顔を向ければ、自分と年が近いと思われる三人の令嬢がソファーに腰かけこちらを見ていた。

 口元を扇で隠している彼女たちは、アメリアに声が聞こえているとは思わなかったのだろう。アメリアと視線が合うと、ぎょっとして一斉に顔を(そむ)ける。

 だがアメリアの表情は変わらない。彼女は何も聞こえなかった振りをして、令嬢方に向かって嫌みのない笑みを向けた。
 ――と、そのときだった。

「アメリア嬢……?」――と、アメリアにかけられる聞き覚えのある声……。

 その声の主は他でもないウィリアムだった。
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