愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 ウィリアムは真夜中過ぎに両親と共に帰宅した。その際、父ロバートはウィリアムがアメリアと婚約をした旨を家令に告げていた。ウィリアムの様子もいつもと比べどこか浮ついていて、ルイスは不審に思ったのだ。いったい夜会で何があったのかと。

 けれどルイスがウィリアムに尋ねても、ウィリアムはただアメリアと婚約したのだという、その事実しか教えてくれなかった。

 そもそもアメリアが夜会に出席したというだけでも驚きなのに、それがまさか婚約に至るなど、ルイスには到底信じられないことであった。

 ウィリアムに聞いても(らち)があかないと思ったルイスがロバートに尋ねると、ウィリアムが公衆の面前でアメリアに結婚を申し込み、アメリアは承諾したのだと教えてくれた。

 しかしルイスに言わせればそれは決してあり得ないことだった。アメリアはあえて人間嫌いの振りをして、人との接触を避けて生きてきたはずなのだから。
 それがウィリアムに対しても同じであることは、お茶会でのアメリアの態度によって証明されている。であるからして、アメリアがウィリアムの結婚の申し出を受け入れるとはまず考えられないのだ。

 確かにルイスはアメリアを次期侯爵夫人にと考えていた。けれどこの流れはあまりに不自然である。いくらそれが望む結果であろうとも、不自然な過程から辿り着いた結果ならそれは疑わなければならない。

 そう考えたルイスはどうにか食い下がり、翌朝改めて夜会での出来事を話すことを承諾させたのだった。

 ルイスはウィリアムの寝顔を暗い瞳で見下ろす。

 ルイスはこの一晩考えていた。なぜウィリアムは貴族の集う夜会などで結婚を申し込んだりしたのか、と。

 皆の前であればさすがのアメリアでも断れないだろう、とでも考えたのだろうか。だとしたらあまりに浅はかだ。そうでなかったと信じたい。

 ウィリアムの軽率な思いつきでないとしたら、アメリアの方から結婚を受け入れる意思を示したということもあり得るだろうか。いや、その可能性は低いだろう。
 ……が、一晩考えた末、やはりそれが一番納得のいく答えであると、ルイスは自身の中で結論を出していた。

 社交場を避けてきたアメリアが不意打ちのようにウィリアムの前に現れたのは、自身の思惑どおりに事を進めるためであったのだろうと。

 だが一つだけわからないことがある。昨夜のウィリアムのあの――どこか浮ついたような表情の理由だ。
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