愛しのあの方と死に別れて千年<1>

6.ルイスの疑念

 今朝は久しぶりに太陽が姿を見せている。時刻は午前七時を回った頃。

 朝の仕事をいつもより早めに終わらせたルイスは、ウィンチェスター侯爵邸の長い廊下を足早に進んでいた。向かうはウィリアムの部屋である。

 ルイスはウィリアムの付き人だ。付き人というのは、一般的な使用人とは違い、主人に近い立場で仕える者のことである。――にもかかわらず、彼は屋敷の従僕(フットマン)の制服を身に付け、部屋こそは一室を与えられているものの、使用人らと寝食を共にしていた。

 ルイスはウィリアムの部屋の前に立ち、扉を三度ノックする。だが返答はない。
 昨夜のウィリアムの帰りは真夜中を回っていたから、おそらくまだ寝ているのであろう。そう考えたルイスは返事を待たずに扉を開け、声かけ一つせずに部屋の中へと踏み込んだ。

 ルイスの予想どおり、ウィリアムはまだベッドの中にいた。
 そんな主人を横目で見つつ、ルイスは部屋のカーテンを手際良く開けていく。

「ウィリアム様、朝でございますよ」
「……んん」

 ルイスが声をかけると、ウィリアムは窓から差し込む朝日を避けるように寝返りをうつ。
 ――が、それ以上の反応はない。

 ルイスはため息をつき、ウィリアムの肩を遠慮なく揺り動かした。

「ウィリアム様、約束の時間でございますよ。昨夜のことをお聞かせくださいませ」
「……あと……五分…………寝かせて……くれ……」
「……まったく、仕方のない人ですね」

 ルイスは起きる気配のないウィリアムに再びため息をつきつつ、昨夜のウィリアムの様子を思い起こした。
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