愛しのあの方と死に別れて千年<1>


「アメリア、お前ももう十八だ。そろそろ結婚相手を見つけねばならん」

 お父様は目を伏せたまま唸るような声を上げる。
 正直断りたくないのだろう。相手は侯爵家であるし、本心ではこの私に縁談が申し込まれたことに安堵しているのかもしれない。
 けれど、本当にそれだけは駄目なのだ。――私は今までの自身の行動を呪う。

 私は今まで極力人付き合いを避けてきた。それはこの私の存在自体がおそらくあってはならないもので、(うと)ましがられる存在であることを自覚しているから。そして同時に、彼に繋がる糸を一本でも増やしてしまいたくなかったから。
 友人も作らず、恋人も作らず、ただひっそりと暮らしてきた。私に近付く者には冷たく当たり、挨拶をされても無視をしてきた。
 そうすれば誰も……彼も、私には近付かないだろうと高を(くく)っていたのだ。

 それがなんという誤算。こんなことになるのなら友人知人の一人でも作っておくべきだった。そうすれば、先約があるなどとごまかして断る理由の一つにもなったのに。

 ――こうなれば、もう直接断るしか……。
 そこまで考えて、私はふと名案を思い付く。

「――そうだわ」

 別にこちらから断る必要はない。向こうから申し出を取り下げてもらえばいいのよ。
 私はそのことに気付き、顔に笑みを張り付ける。

「お父様、その縁談お受けすることにいたしましょう。簡単な食事会でも開いてくださいませ。――いえ、お茶会で十分ですわね。わたくしが直々(じきじき)に準備致します。ファルマス伯もわたくしを目の前にすれば、目が覚めることでございましょう」
「アメリア……何をするつもりだ」

 お父様は顔色を悪くする。
 あらいやだわ、どんな想像をなさっているのかしらね。

「ご心配なさらなくとも、この家の名を汚すようなことは致しません。では、わたくしはこれで失礼致しますわ。伯爵様にお手紙をお出ししなければ」

 私はふわりとドレスの裾を持ち上げてお父様にお辞儀をする。お父様は大層不安げな表情をしているが、私はそれに薄い笑みを返して、書斎を後にした。
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