愛しのあの方と死に別れて千年<1>

4.双子の追憶――初めての夜遊び

 着替えを終えた三人は、一軒のパブの前にいた。

 パブには二つの入り口がある。一つは中産階級用のラウンジ・バーへと続く入り口。もう一つは、労働者階級用のパブリック・バーへ続く入り口だ。

 当然、エドワードとブライアンはそのどちらにも入ったことがない。貴族はパブになど行ったりしないからだ。行くとしたら会員制のクラブだろう。

「ここに……入るのか?」
「しかも庶民の方に?」

 二人はアメリアを見やる。

 彼女はシンプルな黒いドレスとつばの広いボンネットを被っていた。その服装は貴族でも中産階級のものでもない。典型的な労働者階級の服装である。
 当然、エドワードとブライアンが袖を通しているスーツもペラペラの安物だ。
 二人は不満たらたらだが、けれどアメリアは気にも留めない様子である。

「中に入ったらわたしのことはローザと呼ぶこと。先月からわたしの屋敷――サウスウェル家に雇われたパーラー・メイドという設定よ」
「なんだそりゃ」
「ちなみに俺たちは……?」
「……そうね。あなたたちはサウスウェル家に仕える従僕(フットマン)ということにしましょう」
「はぁ!? 俺たちが従僕(フットマン)!?」
「さすがにそれは……せめて従者(ヴァレット)とかさぁ!?」
「あら、従者(ヴァレット)にしては若すぎるし、外見重視の従僕(フットマン)が適当だと思うわよ。あなたたち、見目(みめ)は悪くないじゃない」
「……それは褒められていると受け取っていいのかな」
「まぁ、確かに……君がメイドなら従僕(フットマン)が順当か……」
「理解してくれて助かるわ。じゃあさっそく入りましょ。――あ、でもその前に一つだけ。二人とも、中ではそんなお綺麗な喋り方しちゃだめよ。そんなんじゃ貴族様だってこと、一瞬でバレちゃうんだから」

 そう言った彼女の言葉と発音は確かに庶民そのもので、二人は疑問を通り越してただただ驚くほかなかった。
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