愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 一方、カーラとウィリアム、そしてエドワードとブライアンの四人は湖の入江(いりえ)に到着していた。入江は木々に囲まれているが、湖側は視界が開けていて美しい景色を一望することができる。

 そんな湖に浮かんでいる一隻のボート。乗っているのはカーラとウィリアムであった。ウィリアムは今までにないカーラの強い押しに負け、二人きりでボートに乗ることを承諾したのである。

 エドワードとブライアンは、二人の乗るボートが岸から離れていくのを呆れた様子で眺めていた。

「結局カーラはアメリアと口を利かなかったよな」
「あぁ。まったく困った奴だよ」

 正直予想の範疇ではあったが、あそこまであからさまに敵意を向けるとは思わなかった。
 二人は口々にそんなことを言い合う。――と、それにしても。

「……あいつら遅いな」

 エドワードは手近な丸太に腰を下ろして、未だ到着しないアメリアとアーサーの姿を思い浮かべた。ブライアンも頷きながら、隣の切り株に腰を下ろす。

「まぁ……でもどこ通ってもここに繋がってるし大丈夫だろ。アーサーもついてるし」
「いや……むしろアーサーと一緒っていうのがな」
「いやいや、さすがのあいつも彼女には手を出さないだろ。ウィリアムの婚約者だぞ」
「まぁなぁ。でもあの我が儘腹黒自己中王子、ほんっと節操ないからな」

 エドワードは水面に向かって小石を投げつつため息をつく。

 アーサーの女好きはアメリアの噂とは違って事実である。といっても、基本的に来るもの拒まず去るもの追わずなタイプなので、アメリアに手を出すとは考えにくいが……。

「でも彼女なら、アーサー相手でも一発かましてくれるんじゃないか?」
「そうかなぁ……そうだといいけど」

 それに一番の心配ごとは他でもなく――。
 二人はボートに乗った妹の姿を見つめる。

「あれは修羅場になるぜ……」
「あぁ。ほんっと勘弁してほしいよ」

 二人は呟いて再び大きなため息をついた。が――。

「……あれ?」
 突然、エドワードが首を傾《かし》げる。

「どうした?」
「何か……忘れてる気がする」
「何かって?」

 そうして次の瞬間――あっ、と声を上げる二人。

「――ルイス!」

 二人は馬車を降りて以降一度も姿を見せていないルイスのことをようやく思い出し、思わず顔を見合わせた。
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