愛しのあの方と死に別れて千年<1>

9.疑心暗鬼


「――はっ……はぁ」

 アーサーと別れた私は、意味もなく森の中を駆け抜けていた。

 一刻も早く独りになりたくて、考える時間が欲しくて――私は自身の荒い息遣いを聞きながら、落ち葉を蹴散らしひた走る。

 ――いったいどういうことなのよ。

 正直、アーサーの言葉の半分も理解できなかった。
 アーサーの言った力の意味も、それにルイスの正体も。ルイスが私を探していた理由にだって、少しも思い当たることがなくて――。

「……整理、しなくちゃ」

 私はぐるぐるとループする思考を落ち着かせようと、足を止め後ろを振り返る。

 ここまで来れば大丈夫だろうか。

 周りに誰の気配もないことを確認し、一息つくため木陰に腰を下ろす。そうして、再び思考を巡らせた。

 アーサーの話から察するに、可能性として最も高いのは、 アーサーとルイスは私のような何らかの力を持っているということだろう。私の消えない記憶のような、何らかの力を――。だから、同じような力を持つ私に近づいた……と。

「……でも、そんなことがあり得るのかしら」

 本音で言えば信じがたい。だって千年生きてきて、ただの一度も自分と同じような人間に出会ったことはないのだから。

 それなのに一度に二人も現れるだなんて、にわかには信じられない。――でも、ルイスが私を探していた理由について、他には思い当たることもなくて。
< 87 / 195 >

この作品をシェア

pagetop