愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 ――心の中に暗雲が立ち込める。

 いったい二人は何者なのか。どこまで警戒するべきなのか。ルイスは何のために私を探していたのか。

 ウィリアムは夜会で言った。「ルイスを心から信用している」と。
 あの言葉に嘘はなさそうだった。でもだからこそ私はルイスに疑念を抱いた。そしてその疑念は、アーサーの話を聞いてより一層深まった。

 それにアーサーの言葉を信じるなら、ルイスの目的はウィリアムではなくこの私――つまり、私に近づくためにウィリアムを利用したということにはならないか。

 もしもそうであったなら、ルイスはウィリアムを騙しているということ。私をウィリアムの婚約者に推薦したのはルイス自身のためであり――それは同時に、ウィリアムのルイスに対する信用に足る人物という評価も、虚像のものだということになる。

 であれば、ルイスがウィリアムを害する可能性も考慮しなければ――。

「ウィリアムは……私が守らなくちゃ」

 私は自身に言い聞かせ、右の手のひらをじっと見つめる。

 今までに何度も、何度も赤く染まったこの右手。あの人を守る、そのためだけに鍛え上げたその力。

 戦争のない世が訪れてからというもの、彼を守るために人の命を奪う必要性はなくなった。けれど再びそのときが来れば、私は何の躊躇いもなくこの手を下すだろう。

 ――正直もう使うことはないと思っていたけれど、いざというときには使えるようにしておかなくちゃ……。

 たとえそれがウィリアムを傷付け、悲しませることになろうとも。

 そう、今までだってずっとそうしてきたのだから。彼の命を脅かす者があれば、容赦無く排除する。私はそうやって生きてきたのだから。
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