愛しのあの方と死に別れて千年<1>

10.焦燥


「――ルイスッ!」
「ウィリアム様⁉」

 ルイスは背後から迫るウィリアムに気付き、わずかに走るスピードを落とした。

「なぜ、ここに」

 ルイスは尋ねるが、ウィリアムはそれを無視しそのままルイスの隣に並ぶ。

「そこでアーサーに会った。アメリアはどこにいる」

 ウィリアムの表情は固い。

 ルイスはそんな主人の表情を横目でうかがいつつ、平静を装って答える。

「申し訳ございません、見失ってしまいました。ですが先ほど、カーラ様がアメリア様のお名前を――」
「どっちだ!」
「今、向かっております」

 その言葉を合図に、二人は再び速度を上げた。
 水音がする。視界が開けた。そこには……。

「カーラ!」

 二人の立つ位置から少し離れた崖際に、カーラが独りへたり込んでいた。

「カーラ、何があった! アメリア嬢は一緒ではないのか⁉」

 ウィリアムが駆け寄って尋ねると、カーラはびくりと肩を震わせ顔を上げる。――その、酷く蒼白な顔を。

「ウィリアム……様」

 夏にもかかわらず全身をガタガタ震わせて、彼女はウィリアムの胸元にすがりつく。

「……か……川……に」
「――ッ」

 刹那――ウィリアムは絶句した。

 彼は急いで崖下を覗く。けれど当然、アメリアの姿はない。

「ごめんなさい……ごめんなさい、ウィリアム様。アメリア様は、落ちそうになった私をかばって……。ごめん、なさい……」

 カーラは繰り返す。ごめんなさい――と。ただ青白い顔で、ウィリアムに懺悔(ざんげ)する。
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