愛しのあの方と死に別れて千年<1>

 そんな彼女の姿に、ウィリアムもまた茫然とするほかなかった。
 アメリアが川に落ちたというその事実を、どう受け止めればよいのかわからなかった。

 けれどそんな状況の中でも、ルイスだけは様子が違った。彼はどこか苛立つような顔で、川面をじっと観察していた。

 十秒か――二十秒か――川の流れを見ていたルイスが口を開く。

「ウィリアム様、カーラ様をお願いします。私は下流へ、アメリア様を探しに参ります」

 その声に、ウィリアムはようやく我に返った。そして反射的に答える。

「それなら、俺も一緒に――」
「結構です。あなたは足手まといになる」
「――っ」

 ルイスの冷えた瞳がウィリアムをじっと見下ろす。普通なら主人を見下ろすなど、決して許されない行為にもかかわらず。

 だがその表情は、確かにアメリアの無事を願うもの――ウィリアムにはそう思えた。
 だから彼は、ルイスに言い返すことができなかった。

「ルイス……お前は……」

 ――アメリアを……?

 けれどウィリアムが言うより早く、ルイスはウィリアムに背を向ける。

 そしてもう何一つ言葉を発することなく、その場を走り去った。
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