愛しのあの方と死に別れて千年<1>

「私はアメリア様が流れ着くであろう場所を地形から推測し、そこへ向かいました。結果それは正しかった。けれど私は一足遅く――。そこに残されていたものは、川岸から土手の上まで続く水跡と、真新しい一頭の馬の蹄の跡でした。つまり、彼女が何者かに助け出され、馬で連れ去られたことを意味している」

 ルイスは眉一つ動かさず告げる。それが大した問題でもないと言うように。

「アメリア様を連れ去った者はおそらく、騎士かそれに準ずる者でしょう」

 ルイスの瞳は揺るがない。確信を得ていると言わんばかりに。

 けれどさすがのウィリアムも、これには疑問を持たずにいられなかった。

「なぜそう思う?」

 するとアーサーが、ルイスより先に答える。

「意識のない人間を抱えたまま馬に乗れる人間はそういない。そういうことだろう?」

 ルイスは頷く。
 するとブライアンがようやく思い当たったと声を上げた。

「そうか、手綱を片手で引かなきゃならないから……!」

 通常、ただ馬に乗るだけなら片手で手綱を引く必要はない。つまり人を抱えたまま馬に乗れるのは、それ相応の訓練を積んだ者に限られるということだ。

 けれどエドワードの方は、まだ納得がいかない様子である。

「でも片手(かたて)手綱(たづな)なら俺たちだってできるよな? 狩猟するし。なんで騎士に断定できるんだよ。貴族って可能性もあるだろ」
「それはほら、狩猟って一人じゃしないからだろ? 馬の足跡が一頭だって言うなら、俺たちみたいな貴族じゃない」
「ああ……確かに」

 皆が納得したところで、ルイスは再び口を開く。

「ですからエドワード様。私に馬を一頭お貸しください」
「――え?」
「なんでお前に?」

 エドワードとブライアンは困惑する。
 同時に、ウィリアムも眉をひそめた。

「一人で行くつもりか?」
「はい。――お忘れですか? 隣の街道の先はアルデバラン。アーサー様の伯父上、アルデバラン公爵閣下の領地でございます。あまり大ごとにはされぬ方がよろしいかと」

 その言葉に、今度こそ一同は押し黙った。
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