君の記憶の中の僕、   僕の記憶の中の愛

雨の夜

この会社に勤めてから、かれこれ五年になるのか……と、椅子の背もたれに伸びをしながら藍沢 蓮は思った。
この仕事は好きでもなければ嫌いでもない、ただ生活の為だと就職した会社だった。
この先もこの仕事を続けていくのかなと最近思ってしまう。
かといって、次にしたい仕事があるわけではない。だからダラダラと続けている仕事だった。
でも、仕事の内容を適当にする事は無い。
毎日を真剣に向き合って仕事をしている。
結果、今日も作業だ。
明日休みなので持ち越したくないから仕方がないと自分を言い聞かせての残業だった。

ふと、蓮は伸びした腕をそのまま目の前に持ってきて腕時計を見た。
「あーもうなんだよ。もうこんな時間か」
キリのいいところまで仕事をしてしまいたかったが、もうそろそろ終電がなくなる時間だった。
蓮はデスクに置かれているマグカップのコーヒーをぐっと飲み干すた。
結局明日午前中は此処に来なくては行けないと思いつつ足早に会社を出た。

晩飯どうしようかな?と呑気に考えながら、ロビーまで降りるとガラス越しに行き交う人々が色とりどりの傘をさしているのを見た蓮は 今日はこんな時間だし軽めにするか、、と、思いながら鞄から折り畳み傘を出し会社を後にした。
皆 傘をさしていたのでてっきり、しっかりめに降ってると思ったがまだパラパラする程度だった。
蓮は一旦傘を閉じて小走りで駅に向かった。
駅までは徒歩五分もないぐらいだ。
だけど少し走りだした途端、雨足は徐々に強くなり、すぐに傘を広げた。
『もうすぐ駅だ』
駅の明かりと階段が見えてきた。
これ以上スーツの裾を濡らしたくない。
蓮は小走りからもう一段階ギアを上げた。

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