君の記憶の中の僕、   僕の記憶の中の愛
駅前の広場を横目に軽く息を切らしながら駅へと急いだ。
だが、その足は急ブレーキをかけびたっと止まった。
そこには淡い黄色のワンピースの女性が地面に這いつくばって、何かを探している。
それは行き交う人たちが皆、横目で見ながら歩いて行く異様な光景だった。
蓮は28年生きてきて、こんな光景を見た事がなかった。
きっとそれだけ大事な物を探しているんだと思った。
思わず駆け寄り声をかけようとしたが足を止めた。
不意に女性が立ち上がり振り返った。
その顔は見覚えのある顔だった。
その顔は、一年前に別れた元妻だった。
すぐに駆け寄って声をかけようと思えばかけれた。
でも足が動かない。
急に鉛のように動かない。

彼女とはきれいな別れ方ではなかった。
円満にただただ幸せで一緒にいて、これからもそれは変わらないと思っていた。
でも付き合って三年、結婚し五年、それはある日、突然彼女から告げられた別れだったから。
しかも明確な理由はなく、ただあなたとはこの先一緒にいたくないと言われた。
ろくな別れ方ではなかった。
一方的に言われた僕は納得はできなくて、最後の一ヵ月はぐちゃぐちゃの日々だった。
頑なに考えを変えない彼女に僕が根負けして判を押した形で終わった関係だった。
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