あの道を、貴方と。

わたし達が調査のために止まる予定の須賀川は白河の関についた次の日に無事到着した。

これから七日間泊まる相楽等躬さんに挨拶して部屋に通してもらう。

この等躬さんはここら辺の土地の名士で芭蕉の句のファンらしい。つまり、ただの一般人。下手な宿に泊まるよりもよっぽど安全ということでここで七日間を過ごす。

「いやあ、まさか芭蕉先生がここへお泊まりになられるだなんて。ここにはどれほど泊まるつもりで?」

「芹沢の滝を見に行きたいと思っているので、四、五日ほどのつもりですが」

「そうですか。せっかくですし、明後日、わたしの家の田植えがあるのです。せっかくですしぜひ見学していってください」

「ほぉ、そんなことがあるのですか。それでしたら、そのお礼とはいってはなんですけど、私と、この曾良と、等躬殿で連歌でもやりますか?」

「そ、それはぜひ!せっかくですし、今日の夜にでも」

「もちろんです。曾良、いいですか?」
「はい」

勤めて「やれますよ」みたいな感じで言ったけど正直、今、わたしの頭は大混乱中!

(ちょ、連歌って俳句を用意しておいたらオッケーってやつじゃないじゃん!やばい、大ピンチ!)

でも、芭蕉の決定は絶対だ。ヤバイヤバイヤバイ。

(・・・・・・正直、この手は使いたくなかったけど・・・)

実は、ヤバイヤバイって思っているけど、微妙に取り乱していないのは理由がある。

(まだ、スマホの充電、残ってたかな・・・?)

そう。わたしが未来から持ってきたスマホだ。

タイムスリップしてから、「スマホって使えるのかな?」と思って一回開いて適当に検索してみたのだ。

そしたらなんと、使えちゃった。基地局とか絶対ないはずなのに、使えた。だけど、流石に電気はない。ってことで、残りの充電量を考えるとつけっぱなしだと確実に充電が切れると思って、電源を切って、荷物の中にこっそり忍ばせておいたのだ。

わたしは荷物の整理をするフリをしてこっそりスマホを回収。そのまま違和感のないように厠へ向かう。

(充電は・・・あと二十三%・・・今調べても十分足りる、かな?)

わたしは手早く検索アプリを開く。検索ワードは・・・えっと、[芭蕉 曾良 等躬 連歌]かなぁ・・・あ、このサイトならありそう・・・あ、あったぁ!・・・ふむふむ・・・最初が芭蕉で次が等躬さん、最後がわたし。全部で十二回繰り返して・・・あ、計三十六首詠むから歌仙っていうんだ。へぇ・・・

一通り覚えたら違和感のないように厠を出て自分たちの泊まる部屋に向かう。

「あぁ、曾良。そこにいましたか。どこへいっていたんですか?」

「えぇ、少し厠まで。朝食べたものの何かが腹に当たったのでしょう。芭蕉様は・・・」

「私は大丈夫ですよ。ふむ、朝の魚に火が上手く通っていなかったのかもしれませんね」

「あ、そうかもしれません。確かに少し生臭かったような・・・」

「なら、原因もわかったことですし、そろそろ夕餉の時間ですね。行きましょうか」

(連歌懐紙って確か、連歌用に使う紙のことだよね?確かに涼ちゃんが用意してくれた荷物の中にあったね。そのことかな?)

「えぇ、そうしましょう、芭蕉様」

< 29 / 54 >

この作品をシェア

pagetop