忘れられた恋の物語
なぜこんなに泣くのか自分でもまったくわからない。

それなのに私はその場に座り込んで声をあげて泣いた。

たまに前を通る通行人に不思議そうに見られたけれど、涙はしばらく止まることはなく私は立ち上がることもできなかった。

泣き終わった頃、私は最近聞こえるあの声の主が今の不思議な涙に関係しているのかもしれないと思った。

でも声を聞いただけでこんなに泣くほどの人を思い出せないのだ。それなら記憶がないほど昔に会った人か、実在しない夢で見たような人物なのかもしれない。

どちらにしろ今はもう会えない人なのだろうとわかっていた。

もう会えなくても、私はその人のことが好きだったはず。本当に心から。

私は涙を拭いてその場から立ち上がった。



< 152 / 156 >

この作品をシェア

pagetop