忘れられた恋の物語
思わず口が滑った。『気になる』なんて言うべきじゃなかったのに。

でも一度口から出てしまった言葉は取り消せない。


「俺のことがすごく怪しく見えるかもしれないけど…。もう1回だけ。お願いします。」

「でも…。」

「それなら!俺が怪しいことは何も出来ないように病院で会いましょう!」


答える隙も与えず食い下がった。でも彼女は首を横に振った。


「…もう行きますね。」

「…わかりました。すみませんでした。」


そのまま行ってしまった彼女を見送り、その場に座り込んだ。


「何やってんだ…。これじゃあ変な奴に絡まれたみたいで嫌な思いさせただけだろ…。」


『生きていてほしい』と伝えることは出来たけれど、彼女のためになったとはとても思えない。

今日だけ彼女が死ぬのを止められただけだ。

屋上の柵の外を"定位置"だと言う彼女に、二度とあんな場所には立たないでほしかった。でも、自分に何か出来るとは到底思えなかった。

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