忘れられた恋の物語
でもプロポーズした1か月後、俺は死んだ。

澪を残して。『結婚しよう』と俺が言ったのに。

だからもう一度彼女に会えるこの機会を逃してはいけないと思った。

現世に戻った俺は、強引に澪と知り合った。芦名さんと同じようなやり方で。

すると見えてきたのは、澪が普通に日常を過ごしているようでそうではない姿だった。俺が死んだ日から時間が止まっているように感じたのだ。

最初は澪に会えるだけで良かったのに。人間というのは本当に死んだ後も欲が出るものだ。誰も寄せ付けずに1人でいる澪にもう一度前を向いてほしいと思った。

彼女には自分は違う顔に見えているはずだから、俺は1か月間ずっと別人として澪にアピールし続けた。

この時点で俺は最初の『もう一度だけ澪に会いたい』という願いを忘れてしまっていた。

澪に会うたびに欲張ってしまった。

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