ヒートフルーツ【特別編集版第1部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
かく絵図は描かれた/剣崎
その2


矢島さんは黙って、俺の話を聞いててくれたよ

もっとも、予想だにしない大胆かつ突拍子もないプレゼンだったんで、やはり驚きは隠せないって表情ではあったが(苦笑)

「…ふう、あの小娘がここまでたいそうな戦術を立てられるとはな。しかも、テメエ自身が建田の城の中へ飛び込んで、がさ入れしての成果でこっちを押し立てるオペを考え出して持ち帰るってか。お前が高2の女子高生によう、そこまでの行動を許可していたのもびっくりしたが」

「すいません。何しろ、麻衣は特段詳しく知り得ていないのに、相和会内外の実情をかなり正確に把握していたので…。ヤツの成果報告と一緒で事後報告を考えてました」

これは俺の正直な気持ちに沿った報告だった

矢島さんも苦笑して、なんとか事後報告は不問にしてくれたようだったので、俺はさらに続けた

「…これはあの子特有の鋭い感性からだと思うんですが、”あそこ”を洗えば有用な情報が得られると見て取れたんでしょう。実際、ヤツの言うとおり、マッドハウスに潜入となったら我々サイドでって訳にはいかないですしね。それでダメもとではあったんですが、かなり面白いネタを持ちかえってきました」

「そんで、お前もこれは建田からすべてを奪う武器になり得ると…、そう読んだんだな?」

「はい。確かに、かなりリスキーな計画ではありますよ。しかし、それだけの価値はあると判断できたんです。何と言っても、会長の遺していったあの薬物は何らかの打消しを図らなくては、建田サイドにこっちの足をすくう材料にされてしまいます。ならば、危険を承知で、いっそのこと麻衣の企みどおり、全部彼らに押し付けて強引に幕を下ろしちまいましょうや!」

俺はここで語気を強め、一気に矢島さんの決断を煽った

・・・

だが、正面の矢島さんはいったんウィスキーグラスをテーブルに置き、肝心かなめの前提を俺にぶつけてきた

「伊豆の叔父貴にはどう了解をとるんだ?」

やはり、ここは”決断”に至る前の大前提になる

ましてや関東や関西には、明石田さんは建田さんや北原とは我々より関係が深いと映っている

実際はニュートラルなのだが、建田さんは明石田さんを特段に敬っており、叔父貴も建田さんを昔からかわいがっていた

つまり、こっちサイドが描くカラクリは実質、周到に練られた陰謀な訳で、どう見てもこんなカラクリを死んだ相馬さんと杯を交わした唯一の舎弟である伊豆の大親分が承知しないだろうと…

まあ当然だ

しかしながら、この時点での俺には、その叔父貴から”矢島三郎の三代目就任”の了解を取る方策を持っていた

・・・

「…剣崎、なら、相馬会長亡き後そして、しかるべき法整備がなされ、我々極道もんが社会から排除される世の中になるまでのロードって捉えるんだな?…俺がトップに立って組を引っ張る期間は」

「そうです!事実、県警やその背後の公権力からは、近い将来に法改正される青写真をこちら側にリークされてるんです。それは、明石田の叔父貴も相馬会長からそれなりに告げられてます。つまり、いずれは従来のヤクザ世界から脱却するという新しいレールを、矢島体制の相和会が舵を取るんです。その間は、相馬会長の守り続けた大手の傘下に組み込まれない道を歩み続ける…。そのためには、関東・関西どちらかと関係を強化して生き残っていくしかない…。叔父貴にはここまで告げれば、なら関西ととなるでしょう。その方針を矢島さんと俺が同意すれば、あの人にとっての大義は保たれます」

「うむ…、あの叔父貴の気性からしたら、そこを突くのが一番取り込みやすいかもな。さすがだな、剣崎…。では、俺がお前の本提案に乗ったとして、ここでお前の勝算を聞こうか。それで俺の決断としよう」

この時、サングラス越しに矢島さんの両眼が鋭く光った

一歩誤れば地獄へと通じる二人三脚…

その決断は俺の次の一言で決する

俺は頭を一旦整理してから、長年仕えてきた目の前の上司にこう答えた

・・・

「親分…、俺はあなたを相和会のトップに立ってもらうために、すっと疾走してきたんです。そのために、サプライズの建田二代目を経て上で、三代目の椅子に親分を就かせる絵図を描いてきました。その絵は、麻衣の起草した組み立てを得て、完成したんです。目的は100%達成できるという絵です」

「…わかった。その究極のオセロゲーム、お前と共に最後までだ。となれば、あさっての建田との会談、そっちの絵も頼むぞ」

ついにこの人の決心を導いた

「親分…、ありがとうございます。すでにあさってのシナリオは出来上がっています」

「よし、早速今夜のうちに詰めちまおう」

矢島さんはこう言うと、テーブルからワイスキーグラスを掴み上げ、一気に飲み干したよ

これで道は決した

その夜、俺たち二人は、あさっての会合の席では相馬会長の葬儀を独断で進行させた謝罪を建田さんに伝え、その日のうちに明石田の叔父貴へは相和会二代目継承事案について、建田体制を打診してみるという流れを確認し合った

相馬会長…、始まりました

相和会の今後は、あなたの予期通り、麻衣とケイコを巻き込んだ展開になりそうです

あの世で、しっかりと見届けていてください






< 88 / 221 >

この作品をシェア

pagetop