妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 密着した胸からどっどっと早鐘を打っている音が聞こえる。

(意外。女慣れしてそうなのに、緊張しているのね)
「ごめん。嫌いにならないで。シルディアの反応が可愛くてつい意地悪をしたくなるんだ。シルディアが嫌ならもうしない」
「話が通じるようになるならそれでいいわ」
「うん。ごめんね」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、肩にオデルの顔が埋められる。
 肌に彼の髪が当たりくすぐったい。
 そうして初めて気が付いた。

「ネグリジェのままだわ……!!」

 ドレスルームへと行ったというのに、オデルが流れるように部屋を移動したせいで今の今まで気が付かなかった。

「ちっ気が付かなくてもよかったのに」

 ぼそりと呟かれた言葉を拾い、シルディアは眉を吊り上げた。

「わざと教えなかったわね!?」
「ドレスって着替えに時間かかるし、なにより侍女をつけなければならないから、いっそ、そのままでいてくれればいいなと思っただけだよ」
「それをわざとと言うのよ! あぁもう。わたしの侍女選別は終わっているの?」
「……教えない」
「なんでよ!?」
「教えたら着替えに行くでしょ?」
(つまり選別は終わっていて、控えているのね)

 子どものような口調と回された腕に力が籠ったことでオデルが拗ねているのだと知ったシルディアは、仕方なく口を開く。

「オデルのために着飾ることも許してくれないの?」
「!」

 オデルが息を呑んだのを感じ、シルディアは口角を上げた。

「残念ね。オデルがわたしのために誂えたドレス、わたし一人じゃ満足に着れないし、化粧だってできないわ。困ったわね」
「そんな手には乗らない」
「あらそう。残念。わたしはもっと可愛く着飾った姿を見て欲しいのに」
「くっ……」
「だから、ね? ちゃんと侍女を紹介して。着飾る時間を私にちょうだい?」
「それは、反則でしょ」

 肩に顔をうずめていたオデルはさらにぐりぐりと肩に顔を押し付ける。
 そんな彼に勝利を確信したシルディアが、最後の一押しにとにっこりと笑った。

「着飾ったら一番に来るから、待っていて?」
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