妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)

「俺はそんなことしない」
『君はぼくだ。同じ穴の狢だ。知っているだろう?』
「俺はお前じゃない。俺はオデル・ガルズアースだ。違う人格で、絶対にお前の手に堕ちたりはしない」
『強情だな』
「今まで何人の皇王が乗っ取られたと思ってる」
『ふむ。何人だったかな? まぁそんなことどうでもいいじゃないか。問題は、ぼくのつがいが見つからないことだよ』
「はっ! 寝言は寝て言え。お前のつがいはもう何千年も前に死んでいるだろうが。いつまでも死人を追いかけてんじゃねぇよ」
『君のその口調を聞くのは久しぶりだね。この子の前では猫かぶりしているのか』
「好いた相手に優しく接するのは当たり前のことだ。俺は、お前とは違う。好いた相手を加害しないと気の済まないお前とは、同じになんてならない」
『首筋に噛みついていただろう? 自分の行いを棚に上げるのはよくないね』

 ぎりっと奥歯の鳴る音がする。
 無意識に噛みしめていたらしい。

「それはお前が一瞬体を乗っ取ったからだろ」
『奪い取られるのが悪い』
「ちっ。くそ野郎が」
『あははっ! その本性を見たら彼女はどうなるかな? 幻滅されるんじゃない?』
「彼女はこんなことで幻滅なんてしない」
『じゃあなぜその姿を見せていないのかな? それがすべての答えじゃないか。臆病者』
「つがいすら見つけられないお前に言われたくもないな」
『威勢を張れるのも今のうちだけだよ。君が無様にフラれることを心から願っている』
「あ?」
『それに、君の魔力暴走はもうすぐそこだしね。気長に待つよ。それじゃあね』

 勝手に出てきたと思えば、勝手にいなくなる。
 それが竜の王の亡霊。またの名を初代皇王ニエルドという。
 ニエルドは普段表に出てくることはない。だが、ごくまれにこうして喋りかけてくるのだ。

「都合のいい時ばかり出てきやがって。はぁ。それだけ俺が弱ってるってことか……」

 心が弱れば、隙が生まれてしまう。
 そして、その綻びから蛇のようにぬるりと這い、じわじわと心を締め付けていく。
 すべては体を支配し、オデルという存在を消すためだ。
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