妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 子が親に抱く愛情のように、無償で与えられてばかりではいられないとシルディアは思い始めていた。
 黙ってしまったオデルの手を握ったまま下へ降ろす。そしてもう一度オデルの手を握りしめた。
 願わくば、夜風で冷たくなってしまった彼の肌に自分の体温が移ればいいと。
 されるがままだったオデルがくすりと笑った。

「それ、俺と共に生きるって言ってるようなものなんだけど……わかってる?」
「ひゃっ!?」

 握っていた手がいつの間にか離され、オデルのしなやかな指が手の甲を撫でた。
 僅かに触れた指先が手の甲から腕を上り、肩に流れる白髪を払われる。
 不意に外界に晒された背中を覗き込んだオデルが独り言のように呟く。

「んーでも、つがいの証が出てないから自覚、ではないね。いうなれば決意表明みたいな感じかな?」
「もう! いきなり触らなくても、見せてって言えばいいでしょ! びっくりしたじゃない」
「ごめんね。つい、嬉しくて」
「……そう」
「たとえ嘘でもこれほど嬉しい言葉はないよ」
「嘘じゃないわ。それに、さっきの言葉の意味も、理解しているつもり」
「!」
「そ、そもそも、アルムヘイヤに帰れって言われても帰れないんだから、その……」

 視線を逸らし口ごもるシルディア。
 オデルはそんな彼女の態度を一切気にしていないようで、耐性のない者が見れば卒倒しそうなほどとろけた笑顔を浮かべていた。
 先程からチラチラとこちらを覗く令嬢達の倒れた音がする。
 その音に我に返ったシルディアは夜会から抜け出してきたことを思い出した。

(っと、もうそろそろ戻らないといけないわね。なら最後に話すべきことは……)

 幸せそうな彼に申し訳ないと思いつつも、今ならと意を決して口を開く。

「上皇陛下はアルムヘイヤに来たことがないって言っていたけれど、本当は一度だけあるわよね?」
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