妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 オデルは一瞬目を見開いたがすぐに真剣な顔になり、少し考えるように手を顎に添えた。

「……思い出したんだね。いつ頃かな?」
「湖で死にかけた時に夢で見たの」
「なるほど。それで魔法の効力がなくなった、と。ありえない話じゃないね。俺との思い出全部思い出したのかな?」
「えっと、帰国まで毎日遊んだところまで思い出したわ」
「そっか。嬉しいよ」

 オデルは愛おしそうに笑う。
 彼の態度にシルディアは拍子抜けしてしまった。

「封じてた記憶なんだから、もう一度忘れさせられるかと思ってた」
「そんなことしないよ。せっかく自力で思い出してくれたんだから。ねぇ、思い出した感想はない?」

 期待に満ちた眼差しを向けられ、シルディアは苦笑する。

(昔から顔の良さは変わらないし、優しいのも変わりはない。突出して言うことは別にないのだけど……)

 数秒の思案の後、ふと気になったものに対して言及した。

「口調が」
「口調?」
「昔と違うなって」
「シルディアは俺の好い人だからね。少しでも取っつきやすくしたいなって思ってね」
「それ喋りにくくない?」
「全然? それに、シルディアのためなら口調ぐらい矯正するよ」
「わたしのためにそこまでしなくても……。喋りたいように喋って?」
「……じゃあ言葉に甘えよう」

 頷いたオデルがふっと笑った。
 先程までの口調の時には見せたことのない笑みだ。
 その微笑みにドギマギしてしまう。
 シルディアはこれは心臓に良くないと直感で悟った。

「もしかして、この口調の方が好みか?」

 目敏くシルディアの機微を感じ取ったオデルが揶揄うように首を傾げる。
 気取られたことに驚き、シルディアは動揺を隠そうと捲し立てた。

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど、口調が違うのが、ちょっと、気になっただけっていうか……。あの、さっきまでの口調に、戻ってもらってもいいかなー、なんて」
「ふぅん? この口調だと恥ずかしいのか。可愛いな。いくらシルディアの頼みでも、こんな愛い反応をされてやめるなんて俺にはできないな」
「っ、意地悪だわ」
「意地悪な俺は嫌い?」
「……嫌いになるわけない」
「ん。安心した。正直、幻滅されるかと思っていたんだ」
「そんな些細なことで? ありえないわ」
「あぁ。俺の愛したシルディアはそういう娘だ」

 夜空に晒されて冷たくなってしまった肩にオデルの頭が乗った。
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