妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 ヴィーニャをシルディアへと放り投げ、見張りは笑った。

「オレってば、ちょー優しいからさ侍女ちゃんの鎖だけほどいてやんよ」
「……意味がわからないわ。さっき駄目って言っていたじゃない」
「あん? そーだっけ?」

 見張りの行動には一貫性がなく、何を考えているのかさっぱり理解できない。
 シルディアにぶつかるようにして倒れ込んだヴィーニャですら困惑した顔をしている。
 縄で縛られているとはいえ、ヴィーニャはオデルに選ばれたシルディアの侍女だ。このぐらいの逆境なら簡単に打破するだろう。
 ヴィーニャは脅威だと判断され、厳重に拘束されていたはずだ。

(なのに自ら拘束を緩めるなんて……意図が読めない。自分は強者だと驕りがある?)
「手足の縛られた女なんて、相手になんないっしょ。だからまぁせいぜい足掻いてくんないと面白くてないんだわ」
「……わたし達はあなたを楽しませるためにここにいるわけではないわ」
「なーに言ってんの? これから長い時間一緒にいんだよ? 楽しまないと損じゃね?」
「意味がわからないわ。皇族を敵に回してまで楽しみたいってこと?」
「そうゆーこと」
「イカれてるわ」
「褒め言葉だぜ」

 見張りが女だと侮っている今がチャンスなのだと、シルディアは自分に言い聞かせる。

(ここで一番侮られているであろうわたしが動けば戦況が変えられるかもしれない。怪我を負わせるな、なのか目立つ傷を作るな、なのか……きっと後者ね。でなければ床に叩きつけられてないもの)

 縄を構成する拗じられた繊維の束を少しずつヘアピンで切っていく。
 途方もない作業だが、確実に足首の拘束は緩くなっていた。

(案外ヘアピンでも縄を解けるものね。あと少し力を加えれば切れそうだわ)

 なんとか上体を起こしたヴィーニャが、シルディアの腕に寄り添う。
 それはまるでシルディアが今、何をしているのか理解しているようだ。

(あとはタイミングだけ……ん?)

 猿ぐつわを噛まされ喋ることのできないヴィーニャが、じぃっとシルディアに何かを訴えかける。
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