妹の身代わりで嫁いだ姫は、ヤンデレなはずの皇王にとろ甘に溺愛される(旧 ヤンデレ皇王のつがいはデレ改革をお望みです ~加虐系ヤンデレはデレデレにデレチェンジ~)
 ヴィーニャの腕はシルディアと違い前で縛られているため、ヘアピンを渡せば気取られてしまう。

(もしかして囮になるつもり!?)

 帯刀してないとはいえ、相手は男だ。
 拘束されたヴィーニャなどひと捻りだろう。
 シルディアの考えていることはお見通しなのか、彼女は決意の籠った紅消鼠(べにけしねずみ)色の瞳は轟々と燃え盛る炎のようだ。

(やめてって言っても聞いてくれないでしょうね)

 ヴィーニャの決意を無駄にしないため、シルディアにできることは素早く脱出すること。
 ここがどこかの小屋であれば、扉の先は外かもしくは続き部屋のはずだ。

(もし扉の先が続き部屋だった場合見張りの仲間がいるはず。どうにか逃げ切れたらいいのだけど……)

 ヴィーニャはすくっと両足を縛られていると感じさせずに立ち上がった。
 見張りの目が楽しげに歪む。

「へぇ。やろうっての? オレに負けてんのもう忘れちゃった? いいぜ、こいよ」

 戦うことはできないと高を括っているのだろう。
 にやにやと挑発する見張りをヴィーニャは睨みつける。

「どうしたぁ? そうだよなー! そんなかっこじゃ無――うぉ!?」

 両脚をバネにしてヴィーニャが飛び掛かる。
 目を瞠るような脚力で飛んだ彼女は目論見通り、見張りを蹴り倒すことに成功した。
 ヴィーニャが飛んだと同時に走り出していたシルディアは、その様子を横目で見ながら扉にめがけて体当たりをする。
 勢いよく開いた扉から飛び出た。
 月明りや、陽光が射すと予想していた。
 しかし、予想に反して依然扉の外は薄暗く、窓一つない石造りの廊下が続いている。
 後ろで待てと見張りの声がするが、ヴィーニャが上に乗っていて動けないのだろう。追ってるくる気配はない。
 見覚えのある造りにシルディアは息を呑んだ。

(この造りはまさか……城内の地下……?)

 生まれてから十八年。地下の独房で過ごしていたのだ。
 シルディアの勘が告げている。
 ここは城の地下だと。

(よく見ればここはアルムヘイヤではないわね。少しだけ造りが異なるわ)

 城の造りはどこも似通っていると読んだことがある。
 足を動かしながら地上に出るための階段を探す。
 数分走った頃。
 階段に辿り着いたシルディアは、火の灯った蝋燭に安堵した。
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