ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―

聖女、決意する!

 部屋に帰ったエミは、いつも通りの夜を過ごした。

 お気に入りの部屋着に着替えた後、メイドたちと他愛のないお喋りをしながら夕食をたいらげ、しばらく雑談をしてから、お気に入りの香油を一滴だけたらした風呂に入る。そして、お気に入りのふわふわのガウンに袖を通して、部屋でくつろぐ。
 いつも通りの穏やかな夜だ。
 ただ一つ変わったことといえば、エミの表情だった。にこやかではあるものの、時々何かを思い悩んでいるような暗い表情がよぎる。
 メイドたちはしきりに心配したものの、エミは「疲れてるのかなあ」と笑ってごまかした。

「ねえねえ、メアちん。ハクシャクって、夜遅くに出発するって言ってたよね?」

 ベッドを整えていたメアリーに、エミが尋ねたのは、メイドたちが部屋に下がってしばらく経ってからだった。部屋に残っていたのはメイド長のメアリーだけだ。
 エミは長い爪にド派手なピンク色のマニキュアを塗り終わって、手をひらひらさせている。その表情は、いつもよりも暗い。
 質問の意図はつかめなかったものの、メアリーはとりあえず頷いた。

「ええ、伯爵様はそのようにおっしゃっていましたね。しかし、見送りは不要とのことでしたから、エミ様はお休みになってくださいな」
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