ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 こうして、先の戦争の功労者はだれにもその功績を知られることはなく、それゆえ感謝されることもほとんどなかった。

「……だから、ハクシャクがっ、嫌いにならないでくれて、しかもっ……ありがとうって言ってくれて、……あたじ、マジで嬉しくてぇ……。なんかっ、いままでの頑張りが一気に報われたっていうかぁ……」

 エミは派手にしゃくりあげる。泣いてはいるものの、表情は晴れやかだった。彼女の胸の奥にあった冷たいわだかまりが、温かな涙になって溶けだしていったようだ。
 気がつくと、ディルはエミを抱きしめていた。

「私の礼で良いのであれば、いくらでも言おう。望むときに、好きなだけ言ってやる」
「う、うれじいよぉ……。うぇえ、泣いたら化粧落ちてバケモノになるのに涙が止まんないぃ……」
「私の前では好きなだけ泣いていい。好きなだけ泣いていいから……」
「ふぇ……。うええぇえん」

 子供のように声を上げて泣く異世界から来た聖女を、かつて冷血漢と呼ばれた男が、不器用に、しかし限りなく優しく抱きしめた。
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