ギャルは聖女で世界を救う! ―王子に婚約破棄されたけど、天才伯爵に溺愛されて幸せなのでおけまるです!―
 セバスチャンは全てのツッコミを放棄した。ディルの眉間にたちまち深い皺が寄り、セバスチャンは真っ青になる。これはマズいと、執事の勘が告げたらしいセバスチャンは即座にエミの腕をとった。

「えっ、エミ様、お話はここまでにしましょう! せっかくですのでこのセバスチャンめが、屋敷をご案内いたします。いっ、いえ、案内させてくださいませ! メイドたちにも紹介しなくてはなりませんのでね!」
「あっ、おい……」
「おけまる~♡ あたしもちょうどお屋敷色々見ておきたかったんだよね! ……あっ、そうだ、サクぴと王様から、ハクシャク宛の手紙預かってたんだった! 渡しとくね~」

 エミはポケットからごそごそと封筒を取り出して、「どーぞ」と言いながらディルに手渡す。ディルは思わずエミの手を取る。

「ちょっと待って! 私はまだ質問したいことが……」
「うふふ、いろいろ質問してくれて嬉しいけど、急に来たあたしに時間を割いてもらうのも悪いよぉ~。じゃ、セバスち、行こっか!」

 エミは、ニコニコしながら器用にディルの手をほどき、さっさと踵を返して書斎を出て行く。
 急に珍妙なあだ名をつけられたセバスチャンは、「セバス、ち……」と呆然としながら、エミを小走りで追いかけた。重厚な扉がバタン、と音をたてて閉まる。

 こうして、聖女エミは竜巻のように訪れ、あっという間に去っていった。
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