スイート×トキシック
*



 いつかのように、わたしは彼の手によって着飾らせられることになった。

 シフォン素材のブラウスにリボンのついたジャンパースカート。
 十和くんが選んだものを大人しく着ることにした。

 クラシックでガーリーな可愛らしい格好だが、この服の持ち主がどうなったのかが気がかりで、正直袖を通すのにも抵抗があった。

 でも、心を無にして耐えるほかにない。
 わたしの目的は着せ替え人形になることではないのだ。

「芽依、可愛い。やっぱそういう格好が似合うよ」

 ドアを開けて、着替えたわたしを見るなり彼は嬉しそうに褒めた。

「……いいよ、お世辞は」

「お世辞なんか言わないって。普段からそういう格好してたじゃん。好きなんでしょ?」

「えっ」

 何で知っているのか────ということを今さら疑問に思うのは野暮(やぼ)だ。

 当然ながら一緒に出かけたことはない。
 なのにわたしの私服を知っているということは、休日のわたしをどこかから見ていたのだろう。

 彼はわたしの誘拐に至る前から、つきまとっていたに違いない。

「いつから、わたしのこと……?」

 見ていたのか。好きだったのか。

 十和くんは思い返すように宙を見上げた。

「……始業式の日かな。隣の席だったでしょ」

 初めて会ったその日から、ということだ。
 2年生に進級する前は関わりなんてなかった。



「とりあえず、ほら。座って」

 床に腰を下ろした彼に促されてそうすると、優しく髪を()かされ始める。

「……最初は“可愛いな”って、ただちょっと気になってただけだったんだけど」

 先ほどの続きのようだ。

 背後にいる十和くんの表情は見えないが、声だけでも照れくさそうなのが読み取れる。

「色々話すようになってさ、その内面にも惹かれたんだよねー」

 それがこの間言っていたような、わたしの好きなところの話に繋がってくるのだろう。

『その可愛い顔も、綺麗な髪も、背が低くて華奢なところも、ふわふわして見えるのに芯があるところも、ころころ変わる感情を隠せないところも、一途で粘り強いところも』

 ぜんぶ好き、だって。
 ぜんぶ────。

「芽依‪を見てるとさ、そのたびに思うんだよね。あー、好きだなぁって」

「……っ」

 不意に喉が詰まった。
 つん、と鼻が痛くなる。

 涙が滲んだ。

(何、で)

 泣きそうになったことに自分でもびっくりしているうちに、ぽろぽろとこぼれていく。
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