スイート×トキシック

第10話


 出られるかもしれない可能性が目の前にぶら下がってきて、なかなか寝つけなかった。

 布団の下に隠したフォークの存在を何度も確かめながら、ようやく眠りに落ちて。
 夢が終わらないうちに夜が明けた。

 朝の支度とご飯をつつがなく終え、制服姿の十和くんと相対する。

「じゃあ、芽依。そろそろ行くけど」

「うん、行ってらっしゃい」

 早く、と気持ちが()いてそわそわしてしまう。

 十和くんが帰ってくる頃には、きっとわたしはもうここにはいないだろう。

「行ってきまーす。いい子にしててね」

 ふわ、と抱き寄せられた。
 そのまま後頭部を撫でられる、というおまけつきで。

 頭を撫でるという仕草は同じでも、確かに“子ども扱い”とは言えないようなやり方だ。
 先生を好きな気持ちがなかったら騙されていたかも。

 いくらでも近づいて触れればいい。
 どうせ、これで最後なのだから。

(そう思えば我慢出来る……)

 早く、先生に会いたい。
 鼓動が速まった。
 それもただの願望じゃなくなるんだ。

 わたしを離した十和くんが部屋から出ていき、ドアを閉めた。
 かちゃ、と鍵が閉められる。

 その足音が離れていくと、ドアに張りついて耳を澄ませた。

 玄関のドアの音。鍵の音。
 十和くんが家から出て行った。



(よし……)

 この部屋を出たら、まず電話を探そう。
 わたしのスマホでも固定電話でも何でもいい。
 すぐに警察に通報する。

 がんじがらめにされた玄関の様子を思い出した。
 あれじゃ自力では出られないから。

(ん? でも)

 はたと閃く。

(そういえば、あの補助錠……)

 鍵は内側にあって、外からでは操作出来ない。
 家の中にいるのは閉じ込められたわたしだけ。

 ということは、彼が家を出るときは補助錠もチェーンもかかっていないんじゃ……?

(そうじゃないと十和くんも家に入れないから)

 些細(ささい)な、それでいてこの上なく重要な閃きだった。
 それならこの部屋のドアが開けば、すぐにでも外へ出られる。

(でも、わたしの荷物は……)

 回収したい。回収しておくべきだ。
 特にスマホは────。

 そんなことを考えながら、布団の下に手を入れた。
 隠しておいたフォークを掴む。
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