スイート×トキシック
いますぐにでも血のことを問いただしたい。
けれど、それが得策だとは思えない。
もしワンピースの彼女が本当に殺されていたとして、その理由は十和くんの偏愛や狂愛の果てとは限らない。
もしかすると、こんなふうに彼の重大な“秘密”を知って迫ったのかも。
あるいはこの前のわたしみたいに、彼から逃れようとして失敗した。
そうやって、十和くんの思惑を潰したり機嫌を損ねたりした結果なのかもしれない。
(もう、これ以上は本当に失敗できない)
◇
「おはよ、芽依」
翌朝、十和くんが朝食のはちみつトーストを運んできたとき、とっさにどんな顔をすればいいのか分からなかった。
(どんなふうに話してたっけ……?)
殺人犯かもしれない、と思うと全身が粟立つほどの寒気がした。
それなのに、今日に限って全然ひとりにしてくれない。
小さなテーブルの上にトーストを置いた彼は、悠々とラグの上に腰を下ろし、居座る気でいるみたいだ。
「……時間、いいの?」
「いいの、今日は休みだから。いっぱい一緒にいられるよ」
警戒して動こうとしないわたしの隣へ座り直した十和くんは、ゆったりと表情を和らげる。
どきりとした。
いつでも殺せる間合いに入られた。
(……だめ、怯んでる場合じゃない)
どうにか自分を奮い立たせると、畳んでおいた例のワンピースを手に取る。
「あの。これ、さ……どこで買ったの?」
何気ないふうを装いながら、実際には意を決して尋ねた。
一刻も早くここから出たい。逃げ出したい。
けれど、同じ手はもう通用しないし、彼が休みじゃどのみち身動きが取れない。
だから、少しでも情報を得るために探りを入れる。
いまのわたしにできることはこれしかない。
本当に十和くんが殺人犯なんだとしたら、脱出の隙を窺いながら、その罪を立証するための証拠を探さなきゃ。
「ん? 何でそんなこと気になるの?」
「わ、わたしのために用意してくれたって言ってたでしょ。本当にかわいくてわたし好みだったから気になって」
「あー……」
彼は視線を流し、ややあって答える。
「……ごめん、覚えてないや」
それにしては、答えるまでに時間がかかっていたような気がする。
「……そっか」
「うん。たまたまショーウィンドウで見かけて、芽依に似合いそうって思ってさ。適当なお店で買ったんだよね」
今度は澱みない口調だったものの、どこか取ってつけたようで言い訳がましい。
それなら「覚えていない」じゃなくて「店名を見ていなかった」と言う方が自然だ。
最初からそう答えればよかったのに。