四月のきみが笑うから。
「実は、さ」
先輩は照れたように頭を掻きながら、暗色が混ざる空を見上げた。
「毎朝学校図書館で勉強してると、窓から花壇が見えるんだよ。……引かれるのが怖くて黙ってたけど、言うわ」
瞳を揺らした先輩は、少しだけわたしに近づいた。
それだけであっという間に縮まる距離。手を伸ばせば、お互いが簡単に触れられてしまう。
「毎朝瑠胡を見るたびに、いつかちゃんと話してみたいって思ってた。瑠胡を見ると、勉強も医者の夢を追うことも頑張ろうって思えたんだ。初めて見たときからずっと、俺は瑠胡のことが好きだよ」
言葉の端に混ざる、柔らかい口調と声音。
それが向けられているのは、世界中どこを探してもわたしひとりだけ。
今この瞬間、先輩の瞳はわたしだけを映している。
ただそれだけのことが、たまらなく嬉しかった。たったそれだけのことに、喜びを感じることができる自分がいる。
たぶん、あの日から。ホームで救ってもらったあの瞬間から、わたしの時間は再び動き出していた。
「駅のホームで出会ったあの日、一生分の運を使い切ったと思うくらい、ほんとはすげえ嬉しかった」
でも死にかけてて焦ったけど、と先輩は笑う。
「助けられて本当によかった」
それは心からの安堵を交えた言葉だった。