冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
《そうでしたか……。私の部下に彩夏様の捜索を命じさせましょうか?》
「いや、いい。今彩夏の家の目の前にいる」
《……っふ、相変わらず彼女想いなんですね。天馬様は素敵なお方です》
電話の向こうで男が小さく笑う気配がする。
……本当にこいつは、俺の機嫌を取るのが上手い。
正直お手上げ状態だ。
配下は、主のことに簡単に首を突っ込んではいけない。
そんな常識があるはずなのに、俺は千明を叱責する気力も体力もなくなるくらい、千明の世渡りの巧みさに辟易としていた。
「そんな世辞いらねぇ。……じゃあ切るわ」
黒塗りのベンツが彩夏の家の近くで止まるのを流し目で見ながら、千明との通話を切る。
あんな高級車が、なぜこんな下層住宅街の一角に停められているんだ……?
用心深い俺は、訝しげにその車が停められている方向に視線を走らせる。