冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
いつだって穏やかで、優しく微笑みを浮かべる優しい子なんだから。
「……なんで去らないんだ?もう俺に用はないだろ」
「去るべきはお前の方だろう?なぜおれの街で、おれがお前の前から去らなきゃいけないんだ?道理に反していると思わねぇか?」
両者は1歩も譲る気はない。
ここでは自ら去った方の負け。
───去れば自分が相手よりも弱いということを、認めるということ。
それだけは、俺のプライドが許さない。
そして、プライド以前の問題に、俺は彩夏の家に用事があるのだ。
「俺はこの家に用があるから去ることはない」
「……、ふーん。偶然だね、おれもその家に“大事な子”を送り届けるっていう用事があるんだ」
・・・
何を、言っている、んだ。こいつは。
「………」