冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
一言一句、はっきりと。
だけどそれは、あまりにも理解し難くて。
「今、なんと……?」
わたしは恐る恐る聞き返した。
「…っ、え? ああ、別になんでもないよ」
飛鳥馬様は動揺していた。今までそんな素振りをあまり見せてこなかった飛鳥馬様が、今。
明らかに焦っていた。
“あの頃”って、いつのこと……?
わたしと飛鳥馬様に、過去なんてものはあるはずないのに。
うだうだと悩んでいるうちに、仁科さんが運転している車はわたしの家の前に着いたみたいで。
悩みの種はなくならずにむしろどんどん増えていく気がした。
そのままベンツから降りて、家の扉の前まで歩いてガチャリと鍵を開け、家の中に入り、鍵を閉める。
わたしが家に入ったのを確認できたからか、ベンツが家の前から離れていく走行音を背に聞きながら、わたしは暫し呆然としていた。