冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
美結ちゃんが言っている御曹司を見ると、そこには。
「伊吹、くん───…!?」
小さな叫びが、口からもれ出た。大勢の生徒がいる中で、その綺麗な立ち姿は特に際立っていて、すぐに誰か分かる。
ドクン、ドクン。小さな心臓の鼓動が次第に大きくなっていく。
幸い、わたしの小さな叫びは、もう既に小走りで伊吹くんの方へ向かっていた美結ちゃんには聞かれずに済んだ。
美結ちゃん、あんなに1人で話しかけるのは無理だって言っていたのに……。わたしを置いて、1人で伊吹くんの元へ駆け寄り、声をかけている美結ちゃん。
我ながら尊敬するなぁ……。
と、平和にそんなことを思っていたけど、伊吹くんに話しかける美結ちゃんを見てすぐに現実に引き戻され、わたしも伊吹くんの元へと恐る恐る向かった。
「天馬様、遠くから見ても凄くお綺麗でしたので、声をかけてしまいました……!ご迷惑でしたか?」
美結ちゃんが愛嬌たっぷりの仕草と声音で伊吹くんに話しかける様子を、少し離れたところから見守る。