惚れた弱み
『それはもう聞いた。別のをください。』
願わくば「好きになっちゃいました」的な言葉をもらえれば…
『えー?じゃあ、先輩優しい!』
――そうじゃない!そうじゃないんだけど、嬉しい。
『ありがとう。他!』
『他!?』
『え、もう終わり!?笑』
――もっとほら、ないの?
期待して、トーク画面を見つめる。
そして届いたメッセージは…
『頼りがいあるし、いい先輩だと思います。』
――うーーん…。
期待しすぎた。
――さすがに「好き」なんて言葉は貰えないか。
残念に思いながら、できる限り同じ熱量でメッセージを返す。
『ありがとう。俺は橋本ちゃんのこと、可愛くって、いい子だなって思ってるよ。』
同じ熱量といいながら、できる限り好意を詰め込んだ。
『いい先輩』に対して『いい子』と表現したのは、ただの後輩だと思っていないということを伝えるための自分なりの意地。
そして最後に届いたメッセージは『ありがとうございます』だった。
――まずい。このまま『おやすみ』ってなる流れだ。
せっかくもらった菜々からのメッセージ。
無駄にしたくない。
ふと、カレンダーに目がいった。
――そういえば、毎年8月に美奈川花火大会、あったよな。
急いでスマホで開催日を調べる。
――来週か。
おやすみ、という言葉が送られて来る前に、急いでメッセージを打ち込んだ。
『話変わるけど、今度の美奈川花火大会、一緒にいかない?夏樹からちょうど誘われてて、橋本ちゃんもどうかなって言ってて。工藤ちゃんも行くらしいから。』
――夏樹に誘われてるとか、嘘だけど。
最悪、夏樹達とスケジュールが合わなければ、当日あの2人と都合がつかなくなったことにすればいい。
強引かもしれないが、このくらいしないと、菜々と夏休みに会って話すことなんて、もう叶わない。
ドキドキしながら、返信を待った。
『はい!是非行きたいです。』
――よっしゃ!!
思わずガッツポーズをする。
陸上部を引退し、本格的に受験勉強を始める9月からは、登校する回数もかなり減ってしまう。
会って話す機会はできるだけ作りたい。
『よかった。じゃあ詳細はまた連絡するね』
『わかりました!楽しみにしてます。』
『俺も楽しみ。じゃあまたね。おやすみ』
『おやすみなさい』