惚れた弱み
ドーーンッ!
遠くで、花火が上がる音が聞こえてきた。
でも、博孝達が立っているところからは、全く見えない。
「…帰ろっか。」
そう声をかけ、博孝は菜々と一緒に、駅に向かって歩いて帰った。
花火大会後から、博孝はひたすら予備校に通い、朝から晩まで勉強し続けた。9月に入ってからも、ほとんど登校していない。
進学を希望する生徒達は、予備校に通っている証明さえあれば、学校に通っているのと同じく出席扱いしてもらえる。
まるで菜々にフラれた悔しさを払拭するように、ひたすら机に向かう。
でも、やはり諦めきれない思いがあり、たまに菜々との2ショット写真を眺めることもあった。
そんなある日。
いつものように予備校に通っている途中、段差のある場所を自転車で越えていった拍子に、スマホがカバンから滑り落ちた。
「あ!」
そう言った時にはもう、遅かった。
道路に落ちたスマホは、四隅を交互に地面にぶつけながら勢いそのままで転がり続け、車道に飛び出していた。
ご丁寧に、その上を大型トラックが通っていく。
車が止まった後、急いでスマホを回収した。
が、完全に壊れていて、起動することはできなかった。
――諦めきれずに、いつまでも好きな子の写真なんて眺めてるからバチが当たったかな。
むしろ好都合だったのかもしれない。
これで、菜々との2ショット写真のデータが手元からなくなり、ラインのアカウントも分からなくなった。
菜々のことを思い出さず、勉強に集中できる。
ある意味、菜々と会えない寂しさを、全て勉強につぎ込んでいるといってもよかった。
そんな努力は、希望している大学の合格ラインにも、なんとかと届くようになってきたことで報われていった。