惚れた弱み
「離れないよ。4月から、県内の国立大学に行く。だからいつでも会える。」
そう言った瞬間、菜々が膝から崩れ落ちた。
「おっと。大丈夫?」
咄嗟に腰のあたりから菜々を支えて、抱き寄せる。
菜々は、抱き寄せられたままおとなしく博孝の腕の中に収まっていた。
そんな状況が嬉しくて、口元が更に緩む。
「ごめん、びっくりした?橋本ちゃんの反応をみたくて、ちょっと意地悪しちゃった。」
「もう…!!先輩、ひどい!私、本当に東京に行っちゃうと思って、悲しくて…」
「…悲しくて、思わず好きって言っちゃった?」
菜々がさっき言った言葉を確認したくて、口に出してみる。
自分で口に出した言葉を改めて聞くと、照れくさくて顔に熱が集まるのを感じた。
反して、菜々は少し怒っている様子だ。
「先輩、彼女さんもいるんですよね?離れちゃうなら、いっそ言っちゃおうと思ったけど、県内の大学なら、彼女さんともまだ付き合うーー」
「何の話?俺、彼女とかいないけど?」
「うそ。私、見たんです。先輩が、クリスマス前にお店で黒髪ロングの綺麗な女の人とデートしてるとこ。」
「黒髪ロング…?」
自分が、去年のクリスマス前に何をしたか思い返す。
すぐに心当たりのある記憶に辿り着き、あぁ、と呟くと菜々を見下ろした。
「もしかして姉貴のこと?」
「あねき…?」
きょとんとする菜々。
博孝は嫉妬された嬉しさを抑えながら、2人の姉と一緒に、姉達がクリスマスに彼氏へプレゼントするものを選びに行くのについて行ったことを説明した。