惚れた弱み

「橋本ちゃん、離して…?」


――とにかく冷静になろう。橋本ちゃんがどんな顔をしているのか、見たい。


渋々博孝から体を離す菜々。


博孝は後ろを振り返り、俯いている菜々と向き合った。


「…ごめん。」


――あ、違う。これじゃ俺が橋本ちゃんを振るみたいだ。


慌てて言葉を続ける。


「東京行くって言ったの、あれウソ。」


「…へ?」


まんまと騙されていた様子の菜々が、目を見開いて驚いている。


――そんなに、俺が東京行って離れるのが嫌だったのかよ。


嬉し過ぎて、電話口でついいたずらっぽくなってしまったことを反省する。


そして、本当のことを告げた。

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